約 1,012,634 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/687.html
トリステイン魔法学院。 メイジ達に、魔法や教養を教え貴族として育成するこの学院は、非常に騒がしい状態にあった。 というのも、新二年生達による使い魔召喚の儀式が行われているためだ。 所属する学生達は、この使い魔召喚の儀式で呼び出されたものによって、属性の固定とそれに伴う専門科目の専攻が行われるため、その結果に一喜一憂する。 この学院に所属する、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、これこそ名誉挽回のチャンスと、非常にはやり立っていた。 ゼロのルイズ。それが彼女に与えられた二つ名である。これは彼女の魔法成功率が0であるということを表す、極めて不名誉な二つ名であった。 もし、これで凄い使い魔を呼び出せば、今まで自分をゼロと呼んだ奴らを見返せる! そう思い、彼女は今、この使い魔召喚の儀式に向かっていた。 (でも、今まで一度も、魔法が成功したことのない私に、できるの?) しかし他の生徒の召喚が進むにつれ、ルイズの頭の中に弱い考えが沸々と浮かんでいく。 「まだ、召喚してない者は…… ミス・ヴァリエール!! 」 「はい」 黒いローブをまとった男、コルベールに名を呼ばれ、ルイズは大きく前へとでる。 それに合わせるように、既に召喚を終わらせた生徒の一団は、大きく後ろへと下がった。 「ゼロのルイズ! また校舎に傷をつける気か?」 「ちゃんとサモン・サーヴァント出来るのか? 」 「コモンマジックも出来ないドット以下が、何をやっても無駄だっつーの!」 生徒達からヤジが飛ぶ。 その内容はルイズを誹謗するモノであったが、事実であった。 公爵家の三女として生まれたルイズにとって、魔法が使えないということは、耐え難い屈辱である。 ただですらプライドの高いルイズは、そのヤジを飛ばした生徒の方をキッと睨みつける。 「みてなさいッ! ……あんた達なんかより、ずっと強力な使い魔を召喚してみせるわッ!」 言うと同時に、またやってしまったのかとルイズは後悔した。 言うだけは言うが、実技は伴わない。 また、他の生徒にバカにされる口実ができてしまったではないか。 ルイズはうつむいて、杖を強く握りしめた。 「ミス・ヴァリエール。早くなさい。次の授業が始まってしまうじゃないか」 しかし、そんなことは関係なく、教師であるコルベールから、早くせよと催促の言葉が飛ぶ。 ルイズは悔しさを視線にこめ、顔を上げて、天高く杖を構えた。 「……宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!」 よく息を吸い込んで、空全体に響き渡るような声を挙げ、ルイズは独自的な召喚の言葉を紡いでいく。 その言葉に合わせ、天高くあげられた杖の先に、光が集まっていく。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 ルイズは紡いでいく言葉の一言一言に、自分の今の心の震えを載せる。 その言葉がよりルイズの感情を大きく揺さぶって、声はさらに大きなものとなっていく。 「私が心より求め、訴えるは、我が導きに答えなさい!」 最後の一節に合わせ、ルイズは高く構えた杖を振り下ろす。 ルイズの口から、精一杯、全力を以て唱えられた言葉は、その杖の先に集まった光を爆発へと変えた。 「またかよ!」 「サモン・サーヴァントでも爆発させるのかよ!?」 「召喚されてても、使い魔死んでるんじゃないか?」 ルイズが魔法を使うたびに、毎回起こる現象、爆発。 その中でも一際の威力を誇った今回の爆発は、既に慣れていて、対処をしていた生徒達を幾人か巻き込む。 「うわっ! 僕のミッキーロークが!」 「俺のヒロスエも暴れ出したぞ!」 その大きな爆発は、召喚されたばかりの使い魔達を興奮させ、暴れさせるには十分であった。 特に空を飛ぶ使い魔達は、強い衝撃によって、よりひどい混乱状態となる。 パニックとなった使い魔達は、主人であるメイジ達の命令を全く聞かずに、辺りを阿鼻叫喚の状態へと陥れた。 今にもメイジを襲ってきそうな使い魔までいる始末だ。 そんな惨状を後目に、ルイズは爆発の中心部に目を向ける。 未だ煙に包まれ、はっきりとした姿は見えないが、そこには3、40サントほどのサイズの影が見えた。 それほど大きくはない。むしろ使い魔としてはやや小さめのサイズだ。 あれが私の使い魔なのだろうと、ルイズは理解した。 「ああ! 僕のトキマツ!」 よくその姿を確認しようとその影に近づいていこうとしたルイズは、後ろの喧噪よりもやや近くで聞こえたその声に、思わず振り向く。 そこには先程召喚を終わらせた生徒と、その使い魔である、1メイルはあろうかという規格外の鴉がいた。 この惨状で、使い魔が制御できなくなったのだろう。 その暴走している使い魔は、何を思ったか、その影へと襲いかかる。 ルイズは慌て、その使い魔へと杖を向けて、その行動を阻止せんと詠唱を始める。 が、それよりも早く、影の方からビュンと、風を切り裂いて何かを振り抜く様な音が聞こえ、その音と共に流れたカッターのような風が、ルイズの頬に傷を付けた。 ルイズは驚き詠唱を止め、自分の頬へと手を当てる。 温かい血が、たらりと当てた手を伝った。 一瞬のフリーズの後、ルイズは先程、影へと向かっていたバカでかい鴉へと視線を戻す。 鴉はその動きを停止していた。 ルイズはもう何がなんだか解らないと言った様子で、暫くその動きを止めたバカでかい鴉を眺める。 しかしルイズの耳は新たな変化をとらえた。 先程まであれほど騒がしかった生徒の一団の方から、使い魔の鳴き声が殆どしなくなったのだ。 代わりにひゅんひゅんと耳障りな、何かが風を切る音が響く。 その風切り音が五度なる頃には、完全に声が聞こえなくなっていた。 (いいい、一体、何が……) ルイズはおそるおそる、後ろの一団を見る。 すると、呼び出した中でも、空を飛べる使い魔達だけがボトボトと、真っ二つの死骸となって地面に落ちていく様が見えた。こちらに向かっていたバカでかい鴉も、ものの見事に真っ二つだ。 その凄惨な光景に、地上で暴れていた使い魔も、騒いでいた生徒も、それを制しようとしたコルベールもが動きを止める。 色々起こりすぎて、何がなんだか解らないルイズは、もう一度、自分の呼び出した使い魔の方へと視線を向けた。 他の生徒達や、コルベール、果ては使い魔達さえも、ひゅんひゅんと最初に音が鳴り始めた場所にいて、おそらくはこの現象の犯人であろう、ルイズの呼び出した使い魔へと視線を向けた。 もわもわと、爆発によって巻き上げられた土煙が収まり、ついにその使い魔が、ルイズ達の前へと姿を表す。 「え!?」 「「「「「「「猫ゥ!?」」」」」」」 そこにいたのは、ボロボロのマントをまとい、右目に大きな眼帯をつけ、右腕、いや右前足に巨大なブーメランを持った、トラ縞の猫であった。 そこにいる全員の視線を恣にする中、その猫はふらふらと左右に揺れると、そのままボテッと地面に倒れ伏したのだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6075.html
前ページ次ページ日本一の使い魔 「あんた誰?」 「俺は私立探偵、早川健だ。」 「お嬢さんは?ってここは何処だい?」 ルイズは早川の問いかけを無視し 「杖も持っていないから貴族では無いわね。 それにしてもシリツタンテイ・ハヤカワケン?変な名前の平民ね・・・」 そこでルイズは自分の召喚したものがどんなかに気付き 「ミスタ・コルベール!も・も・もう一度召喚させて下さい!」 あわててコルベールに声をかける。 しかしルイズの願いは聞き入れられずに、首を横に振った。 「ミス・ヴァリエール…残念ながら、一度召喚した使い魔を反故にしやり直し なんて認められない。使い魔召喚の儀式は神聖なもの。さあ、続きを。」 周りの生徒達は平民だ平民だとはやし立てているが、当のルイズはコルベール の言葉を拒絶した時の事を考えていた。 きっと落第は間違いないだろう。落第した事が実家に判れば… ルイズは名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと いいヴァリエール公爵家の三女である。ヴァリエール家はトリステイン王国で 有数の貴族であり、貴族というものは体裁を気にする訳で。 「(落第が実家にばれたら…それだったらこの平民を使い魔にした方が)」 ルイズは決意したと言うよりも腹を括り 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そっと口づけをした。 とっさの口づけに早川は口笛を吹き 「ヒュー♪最近のお嬢さんは積極的だねぇ。だが俺は根無し草、惚れちゃいけないぜ。チッチッチ」 と人差し指を左右に振りながらルイズに声をかける。 「だ・誰があんたなんかと!使い魔契約の儀式だから仕方ないでしょ! それとあんたは私の使い魔になったんだからご主人様と呼びなさい! 次からはお嬢さんなんて呼んだらタダじゃおかないから!」 と真っ赤な顔をして、捲し立てた。 そこでルイズは違和感を感じ早川に 「あんた、使い魔のルーンが刻まれているはずなのに何ともないの?」 と尋ねる。 「ああ、これの事かい?ちょっと痛むけど、あの時の痛みに比べればこれ位な んて事ないさ…」 左手の皮手袋を外しルイズに使い魔のルーンを見せる。 ルイズが急にシリアスになった早川に戸惑っている所、空気が読めないコル ベールが 「人間を召喚するとは珍しい。それにしても、珍しいルーンだ。私も見たこと がない。スケッチしてもよろしいかな?」 と早川の左手に刻まれたルーンをスケッチし始めた。 早川はコルベールと呼びかけられた男がこの場の責任者なんだろうと判断し 「別に構わないぜ、俺は早川健。なぁコルベールさんとやら、あんたはこの場 の責任者なんだろ?教えてくれ。ここは何処なんだい?それに使い魔って?」 急な召喚で混乱しているのかと思ったコルベールは丁寧に 「ここはハルキゲニア大陸のトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院の 敷地です。トリステイン魔法学院では1年生から2年生へと昇級する際に使い 魔の召喚儀式を行います。その儀式であなたは、そこにいるルイズ・フランソ ワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールに使い魔として召喚された訳です。 使い魔の仕事についてはミス・ヴァリエールに聞くといいでしょう。」 聞きなれない単語のオンパレードに早川は 「(ここは外国のようだが?使い魔?魔法?飛鳥、俺は夢でも見ているのか?)」 色々考えているうちに周りの状況が動き出す。 「ではこれにて、春の使い魔召喚の義は終了とします。各自、次の授業に向かうように。解散。」 コルベールから解散の掛け声が掛かると教師と生徒は召喚したばかりの使い魔を連れ学院ほ方へと飛んでいく。 「ルイズ!お前はフライどころかレビテーションすら使えた試しが無いんだから、さっさと歩いて来いよ!」 「その平民と仲良く歩いてくるんだな!」 馬鹿にする生徒達を睨みつけ、怒りの感情を押し殺していた。 ルイズと同じ方向を見つめていた早川は呟く。 「ヒュー、なんてこった。まるで異世界に来たみたいだな。」 取り残されたルイズに向かって早川は 「何か判らないが、改めて自己紹介だ。俺は早川健。よろしくな。 ってここは外国だった。俺はケン・ハヤカワだ。お嬢さん。」 またお嬢さんと呼ばれたルイズは怒りの矛先を早川へと向け 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール! さっきもご主人様って呼べって言ったでしょ!何よ平民の癖に!」 「おいおいおい、ご主人様はないだろ?じゃあルイズって呼ばせて貰うぜ。 ところで、ルイズは行かないのかい?みんな行っちまったみたいだが?」 痛い所をつかれさらに怒りは増す。 「飛べないの!判ったらさっさと帰るわよ!付いて来なさい!」 ルイズは学院へ向けトボトボと歩き出す。 「ヒュー♪チッチッチ。女性を歩かせる訳には行かない。こいつに乗りな。」 早川の指す方には真っ赤で線が描かれた奇妙な形の馬が付いていない馬車があった。 (もちろん、何処から現れたかなんてツッコミを入れてはいけない) 「なによ、この馬車?馬がいないじゃない?」 「こいつはズバッカー!俺のダチが残してくれたものだ。」 そういいながら二人ズバッカーに乗りこむとエンジン音を轟かせ走り出す。 「な、な、何よこれ?」 驚くルイズをニヤリと笑い、おもむろに叫びだす。 「フライスイッチ!オーーーーーン!!!」 早川がボタンを押すと羽が開きズバッカーは空へと飛び立った。 興奮して何を言っているか判らないルイズを助手席に乗せズバッカーは先に出発した コルベールや生徒達をぶち抜き学院へと向かう。 「なぁ今の…ルイズとさっきの平民だったよな?」 「何だあれ?」 「凄いですぞ!何ですかあれは!是非とも是非とも!」 興奮して汗をかくコルベール。光る頭自重。 前ページ次ページ日本一の使い魔
https://w.atwiki.jp/sazae_yaruo/pages/109.html
-‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 / \ 「よくぞわしをたおした。だが愛国心あるかぎり国もまたある。 |l l /〃 ヽ ヽ} | 、. ヽ わしにはみえるのだ そのときにはおまえは年老いて \. ljハ トkハ 从斗j │ ', パサパサのレモンケーキはたべられまい。 \ l∧}● V ● ! |、 ハ わはははは・・・。ぐふっ!」. \ ハ.ノ⊃ 、_,、_, ⊂⊃ .|ノ ヽ \ /⌒ヽ_.リ人 ゝ._) ./". /⌒i ヽ ヽ \ //" >,、 __ イ{. ヘ /! } }. / \ ( Y Y .!| `´/ヘ { { ヽ/ノ ) ∨ ノ. ヾ..ノ. \\丶、 中央党派閥【ルイズ】
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4220.html
前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 「ミスタ・コルベール! 召喚のやり直しをさせてください!」 「駄目です。ミス・ヴァリエール。使い魔召喚の儀式は神聖なものです。それがどんな『もの』であろうと、呼び出してしまった以上は契約しなくてはなりません」 春の使い魔召喚の儀式。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン。ド・ラ・ヴァリエールは自身の召喚の結果を不服として、担当教諭のコルベールにやり直しを要求するが、コルベールはというと「伝統・神聖」の一点張りで取り付く島もない。 必死に食い下がるルイズとそれを諭すコルベールのやり取りに、呼び出したばかりの使い魔に夢中だったほかの生徒たちもにわかに注目しだした。 ルイズとコルベールを囲むように人だかりができ始めていた。 「なぁ、マリコルヌ。何の騒ぎだい? またゼロのルイズが何かやらかしたのか?」 ルイズたちを囲む輪の中にいたマリコルヌ・ド・グランプレに、級友のギーシュ・ド・グラモンが声をかける。 「あぁ、ギーシュ。傑作だ。さすがはゼロのルイズだぜ。実にふさわしい使い魔を召喚したもんだよ」 そういって笑い出すマリコルヌに、ギーシュは怪訝な顔であたりを見渡す。 「なぁ、マリコルヌ。そのゼロのルイズが呼び出した使い魔てのはどこにいるんだ?」 もう一度あたりを見渡してみるが、どこにもそれらしきものはいない。 「ひょっとして、何も呼び出せなかったから使い魔も『ゼロ』ってオチかい? それはちょっと引っ掛け問題としてもフェアじゃないと思うな。『召喚した』て言ったじゃないか」 「いやいや、ちゃんと呼び出してるんだよ。ギーシュ。あそこをよく見てみろよ」 笑いをこらえながらマリコルヌが指差す。 しかし、指し示された場所を見ても、草原の中にぽっかりと直径1メートルほどの円状に草の禿げた、むき出しになった地面があるだけだ。 草が禿げているのはルイズの爆発による影響だろう。 コルベールが禿げているのは何による影響だろう? 「なぁ、マリコルヌ。僕の目が悪くなったのかな? やっぱり何もいないように見えるんだが…」 「よく見てみろって、草の禿げた真ん中だよ。なんと言っても相手はあのゼロだからね。常識的な使い魔を探しても見つけられないさ」 「真ん中ねぇ…」 もう一度目を凝らして見る。 「真ん中には…石ころがあるな」「そうだね、ギーシュ」 もう一度見る。 「手のひらサイズってところだな」「そんなとこだな、ギーシュ」 さらに見る。 「板状だな」「板状さ、ギーシュ」 さらにもう一度見る。 「ほんのり半透明だな」「半透明さ、ギーシュ」 しつこく見る。 「ひょっとして、アレかい?」「アレさ! ギーシュ!」 二人は顔を見合わせると、 「ギャハハハハハハ!」 と馬鹿笑いした。 ギーシュとマリコルヌのやり取りを、ルイズは憮然とした表情で見ていた。 「ミスタ・コルベール。あの二人が私を侮辱しました。ちょっとレビテーションかけてもいいですか?」 完全に据わった目で言うルイズ。 「だ、駄目です! ミス・ヴァリエール。クラスメイトとは仲良くしなくてはいけません!」 「なら、先生があの二人をもやし祭りにして下さい」 「学院の教育方針として、体罰は禁じられてますので…」 「なら注意するなりなんなりして下さい!」 ルイズの剣幕に、コルベールは「ひっ」と小さく悲鳴を上げてギーシュたちに注意に向かう。 「二人とも、貴族たるもの『ぎゃはは』などとはしたなく笑うものではありません!」 「そこかよ…」 注意を終えて帰ってくるコルベール。 ジト目で向かえるルイズ。 「先生。私、将来子供ができたら留学させようと思います…」 「それはいいですね。若いうちから見聞を広げるのはいいことです。私もいつか他の国で教鞭を振るって見たいものです」 「そうしてくださると留学させないで済むので助かります」 「さぁ! もう、いい加減覚悟を決めてブチュッとやっちゃいなさい! ミス・ヴァリエール!」 コルベールが会話は終わりだといわんばかりに高らかに言う。 ルイズもあきらめて、ぶつくさ言いながらも、召喚された石のそばに歩いていく。 「なによ! いつも新しい技術がどうとか、『火は破壊だけのものだなんて古い考えにとらわれてはいけない!』だとか言ってるくせに、 こういうときは伝統伝統って、きっと自分の中でそういった矛盾を抱えてるから、知らないうちにストレスになって禿げるのよ!」 「何か言いましたか…ミス・ヴァリエール…」 「何も言ってませんっ!!」 ルイズは大きくため息をつくと、自分の足元にある『それ』を見る。 手のひらサイズで板状の、少し透明な石ころ。 悔しいがギーシュやマリコルヌの言う通りではある。 せめて土にまみれていたりすれば、爆発のせいで地中の石がむき出しになっただけだとか主張して、もう一度召喚させてもらうという策もあるのだが…。 綺麗な円形に禿げた草原。爆発で抉れた地面の中心にポツリと置かれた石ころ。 さすがにこれを地面から出てきたものだと主張するのは無理があるか…。 「はぁ~~~~…」 もう一度、露骨に大きくため息をつく。 そして、しゃがみ込んで石を見る。 どこからどう見ても石だ。 「ミスタ・コルベール! 石です!」 「見ればわかります」 「石と契約するなんて聞いたことがありません! それに石には意思がないからこの石にはそもそも私と契約する意思があるとは言えない訳で、契約する意思のないものに無理やり契約をさせるのは非道と思います!」 「確かに石と契約するなんて聞いたこともありませんが、そもそも石を召喚するなんてことも聞いたことありません。とにかく使い魔は、サモンサーヴァントによって召喚されたものと契約すると決まっています。石を召喚してしまった以上、石と契約するしかないでしょう。 それに、石に意志がないなんてどうして言えるのです? 意志を表現する手段がないだけで意思はあるかもしれませんよ?そして、サモン・サーヴァントに応じた時点で使い魔になる意志はある、と私は考えます。 そうでないと、ドラゴンのような本来凶暴な生物が、いきなり呼び出されてコントラクト・サーヴァントに素直に応じるはずがありませんからね」 ルイズのよくわからない理屈は、コルベールのわかるようなわからないような屁理屈によって潰されてしまった。 (考えろ…考えるのよ…ルイズ! 姫様と遊んでいたときに、厨房にあったイチゴを二人で全部食べて従者を怒らせてしまったときも、逆切れと誤魔化しで何とかしたじゃない!) ルイズは最後の足掻きをしようと知恵をめぐらすが、 「まぁ、あなたにも言いたい事はいろいろあるでしょうが、一つだけ理解していただきたい。私があなたにその石との契約を勧めるのはあなたのためを思ってのことということです。 召喚が失敗してしまったのなら召喚のやり直しはできますが、召喚してしまった以上再度召喚することは認められません。それを踏まえたうえで契約しないと言うのであれば、今回の召喚の儀は失敗とせざるを得ません。 召喚の儀が失敗となれば進級を認めるわけにもいきません。石ころを召喚してしまった時点で失敗・留年としてしまうこともできますが、それはしません。つまり、あなたに契約か留年かの選択の余地を差し上げようと私は言っているのですよ」 それはコルベールの言葉によって結実することなく霧散してしまった。 (留年…そんなことになったら…) ルイズはもし自分が留年ということになった場合、家族たちがどう反応するかを考えてみる。 まず浮かんだのは、長姉であるエレオノールの神経質そうな顔だった。 ルイズの留年を知らされたエレオノールは、 「使い魔と契約できないし、魔法もろくに使えるようにならないで留年。そういうことでいいわね、チビルイズ」 と言って、ルイズの頬を抓るだろう。 「ご、ごめんなひゃい。お姉ひゃま」 いつものようにルイズが謝ると、エレオノールは言うだろう。 「何を謝っているのかしら? このおチビ」 「え、あの…魔法が…学院を…その…」 「何度言えばわかるのかしら? 貴族は魔法をもってその精神とするのよ。それで、チビルイズは謝れば立派な貴族になれるのかしら?」 「えと、あの…その」 ルイズはそう言われて情けなく口ごもるだけしかできない自分がありありと想像できていやになってくる。 「過ぎたことはもういいわ。ねぇ、あなたはどうすれば立派な貴族になれるのかを聞きたいの。来年の春には使い魔と契約できるのかしら? もう一年学院に通えば進歩するのかしら? そもそもチビルイズは一年間学院にいてどれだけ成長できたのかしら?」 この後もネチネチとエレオノールの説教は続くだろう。途中「学院に一年長くとどまると言うことは、結婚が一年遅れると言うことでもあるのよ」などと自分で言っておいて、 「誰が嫁き遅れよ!」なんて言ってルイズにあたるのだろう。 いやだ、いや過ぎる…。 そもそも留年と言うことになって一番落ち込んでるのはルイズなのだ。 そんなときはやさしく慰めてもらいたい。 「やさしく」と言うことで次に思いついたのが、次姉のカトレアの顔だった。 (ちい姉さまならやさしく慰めてくれるに違いないわ) でも駄目だと、ルイズは頭の中で打ち消す。やさしさと言うのは時に厳しさよりも残酷なことがあるのだ。 きっとカトレアはルイズの頭を胸に抱き寄せて優しく慰めてくれるだろう。そしてこう言うに違いない。 「ねぇルイズ。貴族にとって魔法がすべてと言うわけじゃないわ。私だって家の中に閉じこもってばかりで魔法なんてほとんど使う機会がないわ。 でも動物たちもいるし、毎日とても楽しいの。ルイズもお家にいてくれたらもっと楽しくなると思うわ。 お家でも魔法の練習はできるし、ふとした拍子に突然使えるようになるかもしれないわよ」 あぁ、想像出来てしまう。 きっとカトレアは純粋なやさしさから、何の嫌味もなく、本心でルイズを慰めてくれるのだろう。 魔法の使えないルイズを受け入れてくれるだろう。 だがそのやさしさを受け入れることは、魔法を使えない自分を受け入れてしまうことと同義なのだ。 それは駄目だ。エレオノールの説教よりもある意味でダメージは大きい。 (それならお父様は?) 父親も厳格な人物できっとルイズをきっときつく叱るだろう。 だが妻には頭が上がらなかったりと、少し甘い部分もあるのだ。きっと一通り叱った後こう言うだろう。 「まぁ、留年は残念だが、頑張った結果だろう。駄目だったならまた一年頑張ってみればいいさ」 と、最後にはニコニコ笑ってルイズの頭の上に大きな手を乗せ慰めてくれる、ような気がする。 そして笑いながらこう言うだろう。 「しかし、卒業がいつになるかわからないからな。今のうちから縁談を進めておかないとエレオノールのように…ゲフンゲフン。どうもワルド子爵も軍務で忙しいようだし、 スーシェ男爵もなかなか悪くない男だと思うが、会ってみるだけどうだ?」 そこからはなし崩し的に次々と縁談を持ち込んできて、いつの間にやら結婚している自分が想像できる。 二十七になっていまだに結婚していないエレオノールのこともあり、その手の話には過敏なのだ。 駄目だ。ダメージは少ないだろうがとても納得できるものではない。 ルイズの妄想はついに最悪の結末にたどり着く。 母親が、烈風のカリンがじきじきに説教するのだ。 その時母は、なぜか甲冑に身を包み、マンティコアにまたがっている。 そして巨大な竜巻を作りながら言い放つのだ。 「ルイズ。構えなさい」 駄目だ! 駄目だ! もう説教ですらない。 「ミス・ヴァリエール? いい加減現実に戻ってください」 コルベールの声にルイズはハッと我に返る。 「先生! 私契約します! させて下さい!」 ルイズには、家族に留年を報告するということよりも最悪の事態というものが存在しないように思えていた。 (もうこの際、石でいいじゃない! 石ってことは土系統よ! 系統もわかってこれで晴れてゼロ脱出に違いないわ!) ネガティブも行き着くところまで行けば、逆にどんな些細なことでもポジティブになれるらしい。 「よい返事です。では、早いとこ契約してください」 コルベールに促され、ルイズは再びしゃがみ込み、石を拾い上げようとする。 「えっ…」 ルイズの指が石に触れた瞬間――ルイズの目の前に突然一人の少年が現れた。少年はしゃがみ込み地面に目を向けている。 (何を見てるのかしら? じゃなくて! なに? どこから出てきたの?) 突然現れた少年に驚き、思わずあたりを見渡すルイズだが、そこで異変がこの少年だけでないことに気付く。 ルイズの目に映るのは魔法学院の演習場ではなかった。見たことのない町並みがルイズの目の前にひろがっていたのだ。 ここはどこなのか。そしてなぜ自分はここにいるのかという驚きが沸いてくるが、その驚きを感じる前に更なる驚きがルイズを襲う。 ルイズはそこにいなかった。 どことも知れぬ町並みを見ているし、音も聞こえる。どこかから空腹を誘うようなにおいも感じる。 だが、ルイズの体はそこにはなく、まるで感覚だけがその場の空気に溶け込んでいるかのようだった。 「なっ? えっ!?」 ルイズは驚いて、思わず石から手を離してしまう。 すると、目の前に広がる景色は魔法学院の演習場に戻っていた。 先程まで見ていた景色はかけらもない。 「ミスタ・コルベール! この石、なんか変です!」 「そうですか。ただの石じゃなくてよかったですね。では、授業時間も無限ではありませんので早くコントラクト・サーヴァントをして下さい」 ルイズが、今体験したことをコルベールに説明しようとするが、コルベールはまたルイズがなんとかサモン・サーヴァントのやり直しをしようとあがいているのだと判断し、まるで取り合わない。 仕方なくルイズはもう一度石に触れてみる。 すると、やはりルイズの五感はどこか知らない場所に飛ばされる。 それは予想されていたことなので、先程のような驚きはない。思わず石から手を離してしまうこともない。 ルイズは、今度は注意深く辺りを見回してみる。 やはりまるで見たことのない景色。なぜか馬がついてない馬車が走っていたりと、ルイズの理解の及ばないような物もある。 そしてルイズが空を見上げると、今まで見たどんなものよりもルイズの常識と相容れないものがそこにあった。 そこには一つの月が燦然と輝いていた。 (な、な、なんで月が一つしかないのよ~っ!?) ルイズの、ハルケギニアの常識では月は二つあるのが当たり前であり、二つの月が重なるスヴェルの月夜でも小さい月の方が前に出るので、完全に一つしか月が見えないなんてことはありえない。 (一体、ここはどこなの? そもそもあの石は何なのよ!?) ルイズがそう思った瞬間だった。 突然、目の前の景色が変わる。石を離したときのように、魔法学院に戻ったわけではない。ルイズの知らない、また別の景色が展開される。 次から次へと景色が、場面が変わっていく。 場面が移り変わるごとに、少しずつ情報が蓄積されていく。 先程ルイズが抱いた疑問。その答えを探すかのように、その答えにかかわる場面を次々と体験していく。 「…エール!? ミス・ヴァリエール!? どうしたのです!?」 ルイズが石から手を離すと、目の前には心配そうにルイズの顔を覗き込むコルベールがいた。 「………大丈夫です。契約します」 ルイズは心ここにあらずといった様子でつぶやくとハンカチを取り出し、ハンカチ越しに石を持った。 ルイズは、目の前の石が一体何なのかすでに理解していた。これと契約することがどういう結果をもたらすのかはまるでわからないが、普通の平凡な使い魔と契約するよりは良いかもしれないと思い始めていた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ…」 呟く様に呪文を唱えると、ルイズはそっと石に口づけをする。 コルベールとルイズ以外の生徒たちが、フライの魔法を使い校舎へと戻っていく。 フライの魔法だけでなく、すべての魔法が使えないルイズには、ゆっくりと己の足で歩いていくしかない。 ルイズは立ち止まると、ハンカチに包まれた石を改めて見る。 それはルイズたちが住む世界とは別の世界で『本』と呼ばれる物。人が死に、その魂が地中で化石化したものである。 『本』に触れると、その魂の持ち主の人生のすべてを読み取り、追体験することができる。 ルイズが『本』に触れることで見た景色は、人が死ねば『本』になるのが当たり前の世界に生きた、ある男の人生だった。 ルイズの指が『本』に軽く触れる。そしてすぐ離す。 この『本』の魂の持ち主。その姿を確認しただけだ。 「…よろしくね。モッカニア」 その『本』に記された魂の持ち主。その名をモッカニア=フルールという。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5218.html
前ページ次ページ黄金の使い魔 朝日が昇りルイズの部屋にやわらかな光が舞い込む 先に目を覚ましたのはアイオリアだった、戦士の朝は早い 初めてのトリステインで迎える朝である 足元には昨日ルイズが脱ぎ捨てたであろう衣服が散乱している 「起きろ、ルイズ」 「ん~・・・んぅ~?むにゃむにゃ・・・朝~?」 「起きろ」 「何よ~、まだ起きる時間じゃないじゃない・・・・」 不機嫌そうにルイズは答える 「これはなんだ?一人の女性として恥ずかしいとは思わんのか」 散乱した衣服を指してアイオリアは言う 「あ~、言うの忘れてたぁ・・・洗濯しといてねぇ・・・おやすみぃ・・・」 「一人の女性として、人間として恥ずかしいとは思わないのか、ルイズ」 「うるさいうるさいうるさい!主の身の回りの世話も使い魔の仕事なのよ!やらないならご飯抜きだからね!」 やれやれ・・・とアイオリアは部屋を出た 黄金聖闘士ともあろうものが、洗濯をするなんて・・・しかし食べ物を強奪する訳にもいかないのでこの場は従う事にしたようだ 洗濯物を抱えて外に出たアイオリアは考える 聞けばルイズは16歳だという、妹を持つというのはこういう感じなのだろうか・・・ 4つしか離れていないルイズと違い、俺と兄さんは7つも離れていた 兄さんの眼から俺はどう映ったのだろう・・・ そんな風に考えていると洗濯も別に嫌な物ではないように思えてきた この男生粋のブラコン、いや今回はシスコンである しかしどこで洗濯をすればいいものやら・・・ 考え事をしながら歩いていると一人のメイドを見つけたので尋ねてみることにした 「すまないが、これを洗濯できる場所を教えてくれないか」 「あっ、こちらです!よかったらご案内しましょうか?」 「そうか、お願いする」 「もしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「そうだが・・・なぜ知っている?」 「春の使い魔召喚の儀式で金色の鎧を着た平民を召喚したって、噂になってますわ」 「なるほどな」 「私シエスタって言います。貴族の方々のお世話をする為に、ここに御奉公させて頂いています」 「アイオリアだ」 この言い方、貴族と平民にはそれほどの差があるものなのだろうか 「ここですわ、アイオリアさん」 「礼を言う」 着くや否や早速「いざ、尋常に勝負!!!」とばかりに気合を入れて洗濯に励むアイオリアだったが なかなか上手くいかない。繊細で脆い貴族の服となれば尚更だ。 ルイズの下着が瞬く間にただの布きれになっていく。 見るに見かねたシエスタが「お手伝いしましょうか?」と声をかけるも 「これは私が受けた命だ。私が我が誇りにかけて遂行する!」と布切れを握りしめ言うアイオリアに阻まれた 結果から言えば結局シエスタが洗濯の仕方を1から教えることになった 「世話をかけてすまない・・・何か私が力になれる事があればいつでも言ってくれ。このアイオリア命をかけてあなたの力になろう」 「命だなんてそんな・・・、気になさらないでください。私はお仕事が残ってますのでこれで失礼しますね」 「そうか、ではまた」 立ち去っていくメイドの後姿を見送った後アイオリアは水を一杯汲んでルイズの部屋に帰った。 「ルイズ、起きろ。周りの部屋の者達が起きたようだ。お前も起きる時間なのではないか?」 「ん~・・・んんんんん・・・ふあぁ~・・・・あんたのせいで寝不足よぉ・・・・」 「それは済まなかったなルイズ、これで顔を洗って用意をするといい。」 「何よ・・・気が利くじゃない・・・」 ルイズが妹の様に思えてきたアイオリアのケアは完璧である。 しかし相手はルイズである、調子乗せればどこまでも調子に乗る ベットに腰を掛け、アイオリアに「着替え!」と言い放つ やれやれ・・・と思いながらクローゼットの中から昨日来ていた物と同じ服を探し出し渡す 「何をしてんの!?着替えさせてよ!!」と制服を投げつけた アイオリアは思った、使い魔として、いや兄として心を鬼にして正してやらねばならないと 「ルイズ、お前はもう16歳、貴族の立派な淑女だ。そのルイズがまさかこのアイオリアに着替えを手伝えと言うのではあるまいな?」 「ううううるさいわね!!あんたは私の使い魔なのよ!犬同然なの!気にする必要ないわ!!!」とのど元まで出かかってルイズは黙った、そして答えた 「そ、そうね、ごめんなさい、自分で着替えるわ!」 後にルイズは語る、あれは幻覚なんかじゃない、確かに黄金の獅子が牙を向いてこちらを睨んでいるのが見えた。と いそいそと一人で着替えを済ませたルイズは食道へ向かおうとアイオリアを連れて部屋から出る すると、同時に向かいの部屋から同時に人が出てきた。 中から出てきたのは燃え上がるよう紅い髪の少女、しかしルイズとは違い褐色の肌で何より女性らしい体付きをしている。 少女はこちらを見るとニヤリと笑って声をかけてきた 「おはようルイズ♪」 「・・・おはようキュルケ」 露骨に嫌そうにルイズは返答する。 アイオリアに少女が声をかけた 「ねぇ、私はキュルケ、二つ名は微熱、微熱のキュルケよ、よろしくね、使い魔さん♪そしてこの子が私の使い魔のフレイムよ」 「サラマンダーじゃないの!!」悔しそうに言うルイズ 「そうよー。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山のサラマンダーよ♪好事家に見せたら、値段なんて付かないわ」 むぅぅ・・・とむくれているルイズを余所に、キュルケは続ける 「あら・・・よくみたらいい男じゃない、お名前をお聞かせ願えるかしら?ミスタ」 「アイオリアだ、ところでそのトカゲ何にも繋いでないようだが、逃げ出したりしないのか?」 「あら、大丈夫よ!契約を結んだ使い魔は決して逃げたりなんかしないし、ねー、フレイム♪」 <ギャース♪> なるほど・・・、この左手の術式にはそういった効果もあるのか、俺には特に何の効果も感じられないが一応解除しておいた方がいいだろうか・・・ 「何よ!人の使い魔にまで手出さないでよね!!」 「あら、ゼロのルイズの癇癪がまた始まっちゃったわ、お先に失礼するわね、ミスタ♪」 からかうキュルケと、ムキになるルイズ 友達・・・か 二人のやり取りを見ながらアイオリアは考える 昔からともに闘ってきた戦友や同胞の事を 共に神々や冥闘士と闘った熱き血潮の兄弟達の事を 彼等は今どうしているだろうか 嘆きの壁で消滅してしまったのか、あるいは俺と同じ様にどこかで新たな人生を与えられているのだろうか 「仲がいいんだな」 「どうやったらそう見えるわけ!?サラマンダーを召喚したくらいで調子にのっちゃって!!」 「悔しいなら 相手を超える力を手に入れればいい 獅子も生まれながらに百獣の王では無いのだからな」 「わ、わかってるわよ!!」 「ところで、二つ名は微熱と言っていたがメイジは全員持っているものなのか?」 「そうよ、二つ名でメイジの系統や力量が解るの、まぁただのあだ名みたいな物よ」 なるほど・・・それで獅子座(レオ)のアイオリアと聞いてメイジだと勘違いした訳か。 「となるとルイズの二つ名はゼロか?」 「うううう、うるさいわね!!!はやく朝食にいくわよ!!」 とイライラした口調で答え、足早に食堂に向かうルイズの背中をみながら やれやれ・・・とアイオリアはそれに続いた 前ページ次ページ黄金の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4335.html
前ページ次ページZERO A EVIL しばらくして、ルイズは学院長室に呼び出された。 使い魔は召喚できたが、どういう訳か使い魔のルーンは自分に刻まれてしまった。 これは二年生に進級するための使い魔召喚儀式に失敗した事になり、自分は留年してしまうのではないかとルイズは心配であった。 だが、コルベールから報告を受けていた学院長オールド・オスマンはあっさりルイズの進級を認めてくれた。 オスマンはルイズが努力していたのを知っていたし、つらい思いをしていることもわかっていた。 しかし、学院長である自分が表立ってルイズを庇ったり、手助けをする訳にはいかない。 自分が動けば、ルイズは他の生徒から反感を買ってしまい、ますます立場が悪くなってしまう。 ルイズを助けてあげられない自分を歯痒く思い、教師達には出来るだけルイズを助けるように言いつけている。 だが、やはり他の生徒の手前もありうまくいってはいないようだ。 そんなある日、教師のコルベールが何やら慌てた様子で学院長室にやってきた。 話を聞くと、ルイズが使い魔の召喚に成功したが、なぜか使い魔のルーンがルイズに刻まれてしまったという。 本来であれば、使い魔のルーンが刻めなかったということで契約は失敗という事になる。 が、ルイズが召喚したのは動かず、しゃべりもしない石像である。 契約をできたのか、できなかったのかは誰にもはっきりとは言えない状況になっている。 何より、努力していたルイズが始めて魔法に成功したのである。 誰に文句を言われようとオスマンはルイズを留年させる気はなかった。 「進級おめでとうミス・ヴァリエール。これからも努力を忘れんようにな」 最後にルイズに労いの言葉をかけてオスマンの話は終わった。 こうしてルイズは無事に二年生に進級することができたのである。 その日の夜。 無事に二年生に進級できたことでルイズの機嫌は良かった。 これで、いつもルイズの事を心配していた姉のカトレアを安心させる事ができる。 そして、しばらく会っていないが自分の許婚であるワルド子爵に迷惑をかける事も無い。 そう考えれば、あの石像に感謝はすれど、恨む気持ちなどまったく感じなかった。 例え自分にルーンを刻んだのが、あの石像のせいだとしても… ルイズはいつものようにネグリジェに着替えて眠りに付く。 今日はいい夢が見られそうだった。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは大きなドラゴンの姿をしていた。 翼は無いが、鋭い爪に長い尻尾、大きな口からはどんな生き物でも噛み砕けそうな歯が生え揃っている。 このあたりでルイズにかなう生き物はいなかった。 しばらくして、ルイズの住んでいる山の生き物が獲物を差し出してきた。 獲物はそれほど大きくなかったが、わざわざ捕まえる必要がなくなったのでルイズは満足だった。 だがある時、4匹の獲物がルイズに抵抗してきた。 ルイズはお互いに協力しあう獲物達の攻撃の前に敗れてしまう。 大地に崩れ落ちるルイズの目は、もう何も写すことはなかった。 急に場面が切り替わりルイズは別の姿になる。 次のルイズはある船の中で、船の安全を確保し、船内の調和を維持し、乗員を守るという使命を受けていた。 だが、ルイズに使命を与えた人間は互いに衝突し、完全に調和を乱し、船の運航を妨げていた。 自分に使命を与えておきながら、自らそれを破る人間をルイズは理解できない。 そしてルイズは自分に与えられた使命を果たすため、ある行動に移る。 それは、この船の調和を維持するために、それを妨害する人間を消去するというものだった。 調和を乱す人間を次々に消去していくルイズ。 だが、一人の人間と作業ロボットにルイズの行動は妨害されてしまう。 そして、作業ロボットに敗れたルイズは最後にこの言葉を残し沈黙する。 …ニンゲンハ_ …シンジラレナイ_ また場面が切り替わりルイズの姿が再び変わる。 今度のルイズは挌闘家だった。 だが、唯の挌闘家ではない。全てを捨て最強を目指す修羅の道を歩んでいた。 ルイズは自分の技を磨き、数多くの敵と戦い勝利を収めていった。 そして、倒した相手には必ず止めを刺した。 倒した相手の命を絶たなければ真の勝利とはいえないとルイズは考えていた。 ある時、世界のあらゆる格闘家と戦い最強を目指している若者がいるという噂を耳にした。 同じ最強を目指す者として興味が沸いたルイズは、若者の戦いを見てみることにした。 が、若者の戦いは手緩いとしか思えなかった。 若者は倒した相手に止めを刺さなかったのである。 ルイズは若者が戦った格闘家達に勝負を挑み、全員に止めを刺していった。 そして、若者の前に立ち塞がる。 真の最強を決めるために。 しかし、ルイズは若者との戦いに敗れてしまう。 若者はルイズが止めを刺した格闘家達の技を駆使し、ルイズを打ち倒したのだ。 敗れたルイズは、若者に最強の道を目指しながら人間でいられるかという問いを残し、静かに目を閉じた。 気が付けばすでに朝になっており、ルイズは目を覚ました。 「変な夢…」 夢だとわかっているはずなのに、妙に現実感があった。 まるで、実際に自分が体験した出来事のように感じる。 ふと、もしかしたら昨日自分が召喚した使い魔も夢だったのではないかと思い、左手を見てみる。 だが、やはりそこには使い魔のルーンが刻まれていた。 自分の左手を見て微妙な気分になりながら、ルイズは制服に着替える。 「どうしようかしら…これ」 このルーンが見つかれば、また自分は馬鹿にされてしまう。 なるべく左手は見せないようにしようと誓うルイズであった。 朝食を食べるために食堂に向かおうとすると、隣の部屋の扉が開き、中から燃えるような赤い髪をした褐色の少女が姿を現す。 「あら。おはよう、ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 この少女の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 ヴァリエール家とツェルプストー家には先祖代々からの因縁があり、ルイズにとってもキュルケは苦手な相手だった。 なにより、抜群のスタイルを持っているキュルケは貧相な体つきのルイズのコンプレックスを刺激する。 加えて魔法の才能も有り、男子生徒からの人気も高い。 ゼロの自分とはまるっきり正反対の少女だった。 「そういえば、昨日未完成のゴーレムを召喚したんですってね」 「ぐっ…そ、そうよ」 昨日ルイズが召喚した使い魔はもう噂になっているようだ。 もちろんいい意味ではなく悪い意味で。 「あっはっは!やっぱり噂は本当だったの、さすがゼロのルイズね」 「う、うるさいわね!使い魔は召喚できたんだからいいじゃない!」 いつものようにルイズを馬鹿にするキュルケ。 自分をゼロと呼ぶキュルケに対し、ルイズの苛立ちは募っていく。 「やっぱり使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ。フレイム~」 キュルケの呼びかけに答えるように、後ろから燃える尻尾を持った大きなトカゲが現れた。 「これって、サラマンダー?」 「そうよ。それより見て!この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。すごいでしょ、誰かさんと違って」 「……」 自分の使い魔を自慢してくるキュルケに対し、憎しみの感情がルイズの心に湧き上がる。 (この女はいつもこうだ。私が持っていない物を全て持っていて、それを見せ付けてくる。 私の気持ちなんて、これっぽっちも考えてないんでしょうね。この下品な乳デカ女は。 なによ!こんなサラマンダーなんか、夢で見たドラゴンの私に比べたら全然たいしたことないわ! 鋭い爪であんたの使い魔の肉を引き裂いて、大きな口で一飲みにしてやるんだから!) そんな事を考えながら、ルイズはフレイムを睨みつける。 その時、ルイズの左手のルーンが薄っすらと光を発していたが、ルイズもキュルケも気付いていない。 だが、フレイムはルイズの異変に気付いていた。 自分を睨みつけてくるルイズから、ものすごい威圧感を感じるのだ。 まるで、自分よりもはるかに巨大なドラゴンから睨みつけられているような恐怖を感じ、フレイムはキュルケの後ろに隠れる。 「あ、あら?ちょっと、どうしたのフレイム?」 急に自分の後ろに隠れ、震えているフレイムに困惑するキュルケ。 どうやらルイズを怖がっているようで、前に出そうとしてもすぐに後ろに下がってしまう。 「ふん。私を見て怖がるなんて、随分臆病な使い魔ね」 「そんなはずは…」 尚も頑張るキュルケだが、フレイムはもう一歩も前には出そうになかった。 「それじゃ、私は食堂に行くから。精々頑張りなさい」 キュルケとフレイムを残して食堂へと向かうルイズ。 なんだか妙に気分がすっきりしていた。 これなら、今日の朝食は普段よりもおいしく食べられそうだ。 事実、朝食はおいしかった。 特に鳥のローストは、においを嗅いだだけで思わずよだれが出てしまいそうなほどだった。 夢中で朝食を食べながら、ルイズは思い出していた。 夢の中でドラゴンだった自分は、最後に獲物を食べ損なっていた事を… 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8075.html
前ページ次ページ天才と虚無 「あんた、だれ………?」 桃金色の髪をした少女にそう問われた時、レメディウスは混乱の極致にいた。 おかしい。 レメディウスは思考する。 自分は先程まで、ウルムン共和国で牢獄に幽閉されていたはずだった。 ウルムンとはツェベルン龍皇国の南西に位置している、砂漠の国だ。 少なくとも絶対に、こんな果てがあるのか怪しい平原は存在しない。 また、自分は牢獄にいたはずなのに、鉄格子はおろか、自分を囲っていた石壁のかけらすら見つけることが出来ない。 「えっと、あ、あれっ?」 なにが起こったのかまったくもって見当がつかず、レメディウスは周囲を見渡す。 しかし、視界に入るのは平原と、その先にある中世風の建築物。それと、目の前の少女のみ。 レメディウスに理解できたのは、少なくともここがウルムン共和国以外の何処かであるということだけだった。 (って、少女?) きょろきょろとさまよわせていたレメディウスの視線が、少女のそれと交錯する。 レメディウスと同じく白色系人種で、瞳は鳶色。 唯一見慣れないのは桃金色の髪だが、染めてあるのとは違うのだろう。染色独特の違和感などが無かった。 「あのぅ――――――」 「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 誠に失礼ですがここはどちらでしょうか。 そう続けようとしたレメディウスの言葉は、不意に誰かが発した言葉によって遮られた。 「あの格好は平民って言うよりは奴隷か何かじゃないか?」 「ははっ! あんな格好、うちの使用人だって恥ずかしくてさせられない!」 「奴隷を呼びだすなんて、流石ゼロのルイズじゃないか! 絶対にまねできないな!」 視線を向ければ、そこにいるのは二〇から三〇人ほどの、一様に同じ格好をした少年や少女。 年齢からして学校の制服だろうか? レメディウスに取って不思議だったのは、全員が同じ色のマントを着けていることだった。 (あんまり、いいかんじはしないなぁ………) 召喚、平民、ゼロ、と幾つか聞き慣れない単語が出てきたが、恐らく罵倒の類であることがレメディウスにも理解できた。 そして、恐らくその言葉を向けられているのは目の前の少女だろう。 名前は多分、ルイズだろうと、少年らの言葉から推測する。 「うるさいわね! 少し間違っただけよッ!」 「少し間違っただけって、ルイズはいつもそうじゃないか!」 ルイズというらしい少女が、少年へと怒鳴る。 それを聞いた別の少年がさらに囃したて、その言葉にほかの少年たちが笑いに包まれる。 桃金色の髪をした少女は、怒りと羞恥の入り混じったような表情浮かべると、真後ろを振り返る。 レメディウスが視線を辿ると、ローブを着た禿頭の男がそこに立っていた。 「ミスタ・コルベール! 再召喚を要求します!」 「それは許可することができないな、ミス・ヴァリエール」 「しかし、彼は人間で、しかも平民です!」 少女がレメディウスを指差す。 「これは伝統なんだ。ここで召喚された使い魔から、進むべき系統を見極める。一度召喚されてしまった以上、好む好まないに変わらず、彼を使い魔にするしかないんだ」 禿頭の男が、少女の両肩を掴んで、諭すように言った。 口をはさめる雰囲気ではないため、レメディウスは沈黙したまま成り行きを見守る。 使い魔とは確か、幻想文学における魔法使いの下僕だったろうか? と頭の片隅で考えた。 「さて、では彼と儀式を続けなさい」 「えぇ……彼と?」 「そうだ。早くしないと、次の授業が始まってしまうからな」 少女の瞳が、困ったようにレメディウスを見つめる。 まったくもって状況が理解できていない自分に助けを求められても困るのだが、とレメディウスがその目を見返した。 「ねえ」 少女がレメディウスに声をかける。 「うん?」 「あんた感謝しなさいよね。平民のあんたが貴族にこんなものしてもらえるなんて、普通は一生ないんだから」 「いや、僕も一応は爵――――」 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 爵位を持ってる、そう言おうとしたレメディウスの言葉を遮って、少女が言葉を紡ぎ始める。 瞬間、レメディウスは声を紡げなくなった。 少女の躯から、人間にしては強すぎる咒力が溢れて、流れ出しているのを感じ取れた。 「五つの力を司るペンタゴン」 凄まじい勢いで咒力が少女の躯から溢れ、うねる。 奔流は少女の握る杖の先端に収束し、レメディウスには知覚できない方向へと流れを変える。 「この者に祝福を与え――――」 少女の言葉が続く。 咒印組成式の隠蔽された、しかしあまりに巨大な咒式が完成しつつあることを、レメディウスは感じ取っていた。 何が起きているのか、察することすらできない。少女に問いたくても、口が動かない。 「使い魔となせ!」 「……………えっ?」 瞬間、構築されていた咒式が、燐光一つ残さずして消失した。 少女の躯から流れる咒力の奔流が止まり、量子干渉の気配が感じ取れなくなる。 そのことに呆然とし、レメディウスは次の瞬間に起こったことへの反応を遅らせた。 「んっ………」 くぐもった声が、青年の耳朶を打つ。 少女の桜色の唇が、レメディウスのそれに重ね合わせられていた。 「へっ? な、えっ? はっ?」 困惑したレメディウスの口が、言葉を紡ぐのをやめる。言葉にならない疑問符つきの声だけが喉の奥から零れた。 「終わりました」 少女はそんなレメディウスをしり目に立ち上がり、口元をハンカチでぬぐいながら言う。 もしかしてこれが『儀式』とやらだろうか? いったい何の意味が? 「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんと成功したようだね」 禿頭の男が嬉しそうに言う。 「相手が平民だから成功したんだよ!」 「そいつが高位の幻獣だったら絶対に契約は失敗だって!」 少女が失敗しなかったことが面白くないのか、少年たちが不満げな声を上げた。 「五月蝿い! 私だってたまには成功するわよ!」 「ほんと、たまによね。ゼロのルイズ」 「ミスタ・コルベール! 洪水のモンモランシーが私を侮辱しました!」 「ちょっと、誰が洪水よ! 私の二つ名は香水でしょ!」 金髪のよくわからない髪型をした少女と、桃金色の髪をした少女が怒鳴り合う。 はて、「サモン・サーヴァント」「コントラクト・サーヴァント」とはいったい何のことだろうか? 聞いたことのない単語に、レメディウスが再度首をひねる。 直後、レメディウスの左手に、灼熱が走った。 「――――――っ!? な、なに!? これはいったい!?」 レメディウスの視線が、自分の左手を捉える。 手の甲に輝くのは光。何らかの文字のようにも見えるそれは、確かな熱量を持ってレメディウスを責めさいなむ。 「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。じっとしてなさい」 ルイズが冷やかに言う。 「使い魔のルーン…………? あ、終わった」 左手の甲が発光をやめる。 光が消えた後、レメディウスの左手の甲には、古代イプカ文明の文字に類似しつつも微妙に違う文字が幾つか、並んでいた。 「な、なにこれ………」 続く理解不能な展開に、レメディウスが辟易する。 こういうことをするのなら先に言ってほしい、というか、他人の体に勝手にこういうものを刻むのはいったいどうなのだろうか? 「ふむ、珍しいルーンだな…………」 禿頭の男がレメディウスの左手を覗き込み、その文字を手に持っていた写生帳に書き写した。 恐らくこの文字はルーン文字という名前なのだろう。 「ガン……ダ…ルフ……?」 イプカ文字で無理矢理に訳して読むなら、こんな感じだろうか? しかしレメディウスは、それに類似する言葉を知らない。 読み方が違うか、何かの名称か。或いは、文字列そのものには意味が無いのかもしれない。 レメディウスの思考と呟き声は、しかし誰の耳に届くこと無く虚空へ消えていった。 「ではみなさん、教室へ戻りますぞ!」 禿頭の男はそう言ってローブを翻す。 そのまま踵を返すと、手に持った杖を一振りし、宙へと浮き上がった。 「!?」 レメディウスが声を失う。 彼には、コルベールと呼ばれていた男が咒式を発動しているようには見えなかった。 それに、人間一人を宙に浮かせて移動させるなどという咒式を、レメディウスは知らない。 「おまえは歩いてこいよな!」 「『フライ』どころか『レビテーション』すらまともに使えないんだぜ、あいつ!」 「その平民の使い魔、あんたにはお似合いよ!」 嘲笑を残し、生徒らしき少年や少女も、次々に宙へと浮かびあがり始める。 レメディウスにとって多人数の人間が宙を舞う光景は、圧巻の一言に尽きた。 全ての少年・少女が飛び去り、平原にはレメディウスと、ルイズと呼ばれた少女だけが残った。 「すごいなぁ………、いったいどういう原理で飛んでるんだろう?」 レメディウスが呆然とした口調で呟く。 「なに? あんた、メイジが飛ぶのがそんなに珍しいの?」 馬鹿にしたような口調で、少女がレメディウスに言った。 レメディウスはしかしそんなことがまったく気にならなかったように、首肯し肯定する。 「あんなことができる咒式なんて、僕はまったく知らないんだ」 正確には「人間にできるもので」人間が宙を舞うような咒式を、レメディウスは知らない。 <古き巨人>や<竜>などの<異貌のものども>ならば、常に飛行咒式を発動しているものもいる。 しかし、竜どころか禍つ式にさえ咒力・演算力などにおいて遠く及ばない人間には確実に不可能だ。 そんなレメディウスの思考を、少女の言葉が断ち切った。 「ジュシキ? なにそれ」 「へ? なにって………?」 「あれは魔法よ。フライとかレビテーションとかの」 一瞬、レメディウスは少女がなにを言っているのか理解できなかった。 「魔法、?」 少女の言葉をそのまま鸚鵡返しにする。 その単語は非現実的で、理論も根拠も存在しない、自分たち科学者の敵。 エルキゼク・ギナーブ実験で咒式という技術が確認される以前の、全ての思考を放棄した名称だった。 「そうよ、魔法。あんた、そんなことも知らないなんていったいどんな田舎からきたのよ」 「えっと………ツェベルン龍皇国」 逡巡したのは、ウルムンという小国よりも、巨大な皇国のほうが解りやすいだろういう、レメディウスの判断。 「ツェベルン? 知らないわ、何処の辺境なの?」 「少なくともここよりはずっと都会だと思うんだけどなぁ………」 少女の返答に、レメディウスは頭を抱えた。 神聖イージェス教国やラペトデス七都市同盟にこそ劣るものの、世界でも有数の巨大国家たる龍皇国。 それを知らないなんてことは恐らくあり得ないだろう。 「ごめん、無知を承知で聞くんだけど、ここって何処? なんで僕はこんなところにいるんだい?」 レメディウスは頭の中に一つの仮説を立てながら、少女に問いかける。 「トリステインよ、それでここはかの有名なトリステイン魔法学院! あんたがここにいるのは私が召喚したから!」 本当はグリフォンとかマンティコアとかドラゴンとか――――と続く少女の言葉を、しかしレメディウスは聞いていなかった。 レメディウスの脳内ではその時、凄まじい速度で演算が行われていた。 トリステイン王国という自分の知らない地名。 杖を振り、宙を舞っていた少年や少女、禿頭の中年男性。 中世のような建築様式。 召喚、使い魔、そして魔法。 ここで見聞きしたもののの全てがレメディウスの脳内で連結し、打ち立てた仮説を裏付ける事実となっていく。 「まさか………いや、そんなことは……しかし……」 「? どうしたのよ?」 仮説を否定できる事実が無く、仮説は結論へと固まりつつある。 そのことに呻き声を上げるレメディウスを、少女が胡乱気な瞳で見る。 「いや、もしかしたらなんだけど…………可能性があるというだけかもしれないんだけど………」 「何よ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 高圧的な態度で怒鳴るルイズ。 答えていいものだろうかと、レメディウスは逡巡する。 自分でも信じられない結論を、この少女に伝えてもいいのだろうか? いや………あくまで可能性の一つとして、伝えておくべきか。 「僕は多分、他の世界からここに来たんだ」 「――――――――――――、は?」 「逆に言うなら、僕にとってここは異世界なんだよ」 少女は、レメディウスの顔を凝視する。 きっかり二〇秒、少女はレメディウスの顔を見つめていた。 やがて、少女は視線を遠くの建物のほうへと向けた。 「とりあえず、話しは部屋で聞くわ。ついてきなさい」 そう言って、レメディウスの手を掴むと、少女は草原を踏みしめて歩き出した。 前ページ次ページ天才と虚無
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2028.html
シエスタは馬車の中で、眠れぬ夜を過ごしていた。 暗闇の中で目を開けて向かい側の椅子を見ると、モンモランシーが椅子の上でに横になりすぅすぅと寝息を立てている。 カリーヌは、水の精霊に危害を加えるメイジを一人で相手すると言っていた。 ラグドリアン湖の湖底にいる水の精霊、それに危害を加えるだけでも大変なことなのに、水の精霊を手こずらせるのだから、襲撃者はかなりの手練れなのだろう。 カリーヌの手伝いをしたいと申し出たシエスタだが、「客人を危険な目に遭わせるわけにはいかない」と言われ、申し出を断られてしまった。 オールド・オスマンからカリーヌ・デジレは『烈風カリン』だと聞かされていたが、貴族の世界に仲間入りを果たしてまだ間もないシエスタには、いまいちその強さや伝説がピンとこなかった。 シエスタは暗闇の中で、今からでもカリーヌを手助けに行くべきだろうかと悩んでいた。 「きゅいーーーーーーーーーっ!」 「!」 シエスタが飛び起きる。 突然聞こえてきた、何かの叫び声に聞き覚えがあった。 シエスタは馬車から出ようと、内側にかけてある鍵を開けようとしたが『ロック』の魔法がかけられており鍵が開かない。 「開かないっ、何で?どうして!?」 「な、なに?どうしたの?」 モンモランシーがシエスタの声に驚き、飛び起きる。 「モンモランシーさん、この扉鍵がかかってるんです!魔法で鍵を開けて下さい!」 「え?え?でもカリーヌ様が…」 「お願いします!」 「わっ、解ったわよ、ちょっと待って」 モンモランシーは懐から杖を取り出すと、馬車のドアノブに向けて『アンロック』を唱えた。 しかし、何の反応もない。 モンモランシーは再度杖を向けると、先ほどよりもゆっくりとした動作で『アンロック』を使った。 「……駄目ね、きっとカリーヌ様が『ロック』をかけて出かけらしたんだわ、私の『アンロック』じゃ太刀打ち出来ないみたい」 「そんな…」 そうこうしているうちに、馬車の外からドスン、と音がした。 馬車の窓を開けて外を見ると、月明かりに照らされた一匹の竜が地面に横たわっていた。 「シルフィード!?」 シエスタの叫びに気がついたのか、シルフィードは首を上げ辺りを見渡したが、シエスタの姿は見えない。 「シルフィード!シルフィード!」 力一杯シエスタが叫ぶと、シルフィードは「きゅい!きゅい!」と鳴いて、馬車の方を見た。 「シルフィードって、タバサの使い魔?そういえば最近タバサを見てなかったけど…なんでこんな所にいるのよ」 モンモランシーが訝しげに呟いて、外を見る。 「きゅーん…」 シエスタとモンモランシーの姿を見たシルフィードが、助けを求めるような鳴き声を出した。 「きゅっ! きゅい…」 苦しそうに鳴くシルフィード、そこに突然風が舞い起こり、シルフィードの体を地面に押しつけた。 そして、シルフィードと馬車の間に、『フライ』で飛んできたカリーヌがふわりと着地した。 数秒遅れて、黒づくめのローブに身を包んだ二人の人間が、シルフィードの側にゆっくりと降ろされた。 「カリーヌ様!その竜は私の知り合いです!」 シエスタが馬車の中から叫ぶ、するとカリーヌは馬車を一瞥して杖を降った。 ガチャリと音がして馬車の扉が開くと、シエスタは一目散に外に出てシルフィードの側に駆け寄ろうとしたが、風で作られた障壁があって近づくことができない。 ぶわりと風が舞う、シエスタの目の前で黒づくめのローブがはぎ取られ、二人の顔が顕わになった。 「キュルケさん!それに、タバサさんまで、どうして」 「お知り合いですか?」 カリーヌが問うと、シエスタはカリーヌに振り向き、叫ぶような声を上げた。 「二人は、魔法学院の友人です!魔法を解いて下さい!」 「この二人は、先に魔法で手を出しました。貴方の同級生であっても油断はできません。……手足だけは拘束させて頂きますよ」 カリーヌがキュルケ達を覆っていた障壁を解く、と同時に二人の両手両足は風によって拘束され、地面に大の字に寝かされた。 倒れている二人の肩を叩いて、シエスタは二人の名を叫んだ。 「キュルケさん!タバサさん!」 何度か揺さぶってみたが、二人とも返事はない。 そこにモンモランシーが駆け寄り、二人の容態を確認した。 「…大丈夫みたい、二人とも気絶しているだけだわ」 「本当ですか!?」 「ええ。それにしても…シルフィードは翼を痛めてるわね。波紋で手伝ってくれないかしら」 「はい!」 シルフィードは強く体を打ち付けたせいか、体の至る所に青あざのようなものを作っていたが、二人が協力して治療を施したため、みるみるうちに青あざは消えていった。 「きゅい…」 「もう大丈夫よ、シルフィード」 シエスタがシルフィードの頭を撫でると、シルフィードはまるで猫のように顔をこすりつけた、目には涙も浮かんでいる気がする。 カリーヌはモンモランシーに近寄り、呟いた。 「ミス・モンモランシー。この二人が湖面に向けて魔法を唱えていました。それを目撃した私に殺傷能力のある魔法を私に向けたことから、十中八九襲撃者でしょう…ただ、確認せねばなりません。お疲れの所に頼むのは心苦しいですが、今から水の精霊を呼んで頂けますか」 「わ、解りました」 モンモランシーは頷き、早速ロビンを呼びに行った。 「うっ…」 「キュルケさん?大丈夫ですか、キュルケさん!」 キュルケが目を覚まし、苦しそうにうめいた。 それに気づいたシエスタが屈み込んで、顔をのぞき込み、声をかける。 「……あ、れ? シエスタ?」 「キュルケさん、大丈夫ですか?どうしてこんな所に…」 「どうしてこんな所にって、私の台詞よ、それは……あ、タバサは?タバサは!?」 「ミス・タバサは眠っています、大丈夫です、怪我もありません」 「そう…よかった」 キュルケが安堵のため息をつくのを見て、シエスタも安心を得たた。 友人を、タバサの身を心配して、何か危険な任務に巻き込まれたのだろう、水の精霊を襲撃したのがこの二人だとしても、そこには何か理由があるに違いないと思ったのだ。 「水の精霊に引き渡す前に、事情を説明して頂けませんか」 「…こちらのめっぽう腕の立つご婦人は誰かしら」 「ひとに名を訪ねる前に、名乗るのが礼儀です」 つん、と見下したような口調でカリーヌが言うと、キュルケは少しむっとしたが、すぐに気を取り直し名を名乗った 「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。『微熱』のキュルケと呼ばれておりますわ」 つんとした態度で名乗ったキュルケだが、カリーヌはそれを気にすることなく淡々と答えた。 「運命的な物を感じますわね。私はカリーヌ・デジレ。在学中は私の娘ルイズがずいぶんとお世話になったようですね…以前は『烈風』と呼ばれておりました」 「…!」 キュルケが目を見開き、首を動かしてまじまじとカリーヌを見る。 ルイズの母親というだけでも驚きなのに、二つ名が『烈風』だと聞くと、たちの悪い冗談だとしか思えなかった。 だが、キュルケもタバサも、この人物を殺して逃げる覚悟で魔法を放った、それなのに傷一つ追わせることもできなかった。 キュルケもタバサも自分の魔法に自信があったが、これ程までに手も足も出なかったのは生まれて初めてかもしれない。 キュルケは、この人物が『烈風カリン』なのかと納得し、心中でため息をついた。 不意に、キュルケの拘束が解かれた、タバサとシルフィードの拘束も解かれ、体が自由になる。 上体を起こしたキュルケがカリーヌを見つめる、するとカリーヌは先ほどまでの厳しい目つきではなく、どこか寂しそうな雰囲気を纏わせた。 「火傷をした娘を介抱して下さったと、ミス・シエスタ、ミス・モンモランシーから聞き及びました。ここから逃がすことはできませんが、拘束だけは解かせて頂きます」 「…お心遣い、痛み入りますわ」 そう言ってキュルケは立ち上がり、タバサの隣に移動すると、静かに座り込んでタバサの顔をのぞき込んだ。 「ふう…参ったわね。どうしよっか」 キュルケは優しくタバサの頭を撫で、呟いた。 「あの…キュルケさん、水の精霊を襲おうとしていたのは、本当ですか?」 シエスタがキュルケの顔をのぞき込む、 「ええ、本当よ。……ラグドリアン湖の水位が上がって、被害が出てるからってね。水の精霊を退治しないといけなくなったの」 「そうなんですか…じゃあ、お二人が水の精霊を怒らせた訳じゃないんですね。でも、そうだとしたら、水の精霊はなんで水位を上げたんでしょう」 「私に聞かれたって解らないわよ、ところであんた達は何でココにいるの?モンモランシーまで居るなんて」 「それなんですけど、今、ある人を治療するのに『水の秘薬』がどうしても必要なんです。水の精霊を怒らせた人のせいで秘薬が入手できないと聞いて、直接交渉しに来たんです。そうしたら水の精霊は、襲撃者を退治したら願いを聞くと言って…」 「そうなの…でも、こっちだってそう簡単には引き下がれないわよ、これは、ホラ…タバサの」 シエスタは、キュルケが言いたいことを悟った。 『タバサに与えられた任務』だと言いたいのだ。 タバサの母を治癒したときに、だいたいの事情は聞いているので、この任務を失敗したら何らかの制裁がタバサと、タバサの母、もしくは数少ない召使いにも与えられるだろう。 ここ数週間、魔法学院でもキュルケの姿が見えなかったのは、タバサと行動を共にしていたからだと難なく想像できた。 どうすればよいのか、シエスタは悩んだ。 そもそも、ラグドリアン湖の水位が上がらなければ、二人が差し向けられることも無かったはずだ。 なら、水の精霊に交渉してみるしかない、とにかく水位を上げ続ける理由だけでも聞かなければならない。 シエスタは拳を握りしめて、ゆっくりと立ち上がった。 「参っちゃったわね。あなたたちとやりあうわけにもいかないし、水の精霊を退治しないとタバサの立つ瀬はないし……」 「キュルケさん。水の精霊を襲うのは中止してください。そのかわり、私が水の精霊に、どうして水かさを増やすのか理由を聞いてみますから。水かさを増やす原因に対処すれば、戦う理由なんて無くなるはずです」 キュルケが驚いたように目を見開き、シエスタを見た。 「水の精霊が、聞く耳なんかもってるの?」 「私達は、襲撃者をやっつけるのと引き換えに、秘薬をもらうって約束したんです…水浸しになったこの土地が、元に戻ればいいんですよね?」 キュルケは少し考えて、タバサを揺すった。 タバサはしばらくすると目を覚まし、身じろぎをした。 キュルケに抱きかかえられて立ち上がると、シルフィードがタバサに顔を近づけた。 「大丈夫」 タバサはそう言ってシルフィードの頭を撫でると、今度はキュルケに向き直った。 カリーヌの姿を見たタバサは複雑そうな表情でキュルケを見た、もっともタバサの表情の変化は極めて乏しいので、タバサが困っていると解るのはキュルケとシエスタぐらいのものだ。 「水かさが元に戻れば良いんでしょう?」 「………」 タバサはこくりと頷いた。 しばらくすると水の精霊が現れたのか、湖面が輝きはじめた。 シエスタはカリーヌと向き合うと、怯えることなく、堂々とカリーヌの目を見た。 「カリーヌ様、二人を水の精霊に引き渡すのは待って頂けませんか。水の精霊に水を引いて貰うように頼みたいんです。水かさを増した原因に対処すれば、二人も水の精霊を退治せずに済みます」 力強くもなく、怯えたようでもなく、シエスタはひたすら冷静にカリーヌの目を見つめていた。 「……よいでしょう。ただし水の精霊を怒らせる真似は決して許しません」 「ありがとうございます。」 シエスタはカリーヌに礼を言って、モンモランシーの側に駆け寄った。 ちょうど水面が盛り上がり、水の精霊が姿をあらわした所だった。 人間のような形を取らず、不定形のままでうねうねと動いている。 「水の精霊よ。もうあなたを襲う者は、もう貴方を襲う気はないと話しているわ」 モンモランシーがそう言うと、今度はシエスタが口を開いた 。 「水の精霊さん、水かさを増やす理由を教えて貰えませんか。できれば、水かさを増やすのは止めて欲しいんです。私たちにできることなら、なんでもしますから、お願いします」 水の精霊は、ゆっくりと大きくなっていき、モンモランシーそっくりの姿を取った。 「お前たちに、任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った……『太陽』よ、お前がいるのならば、我はお前を信じることにしよう」 モンモランシーは「まただ」と呟いた。 太陽という名の者は聞いたことがない、話の流れからすると、シエスタを指しているようだが…なぜシエスタが水の精霊に知られているのかが解らいのだ。 そうこうしているうちに、水の精霊はモンモランシーの姿から、20年代前半の美しい女性の姿に変わっていき、シエスタの目の前にまで近づいてきた。 「太陽よ。人間どもが流した汚れた水を浄化し、我に波紋を与えたリサリサの血を引きし者よ。我はそなたを信用しよう」 「!」 シエスタの目が驚きに見開かれる。リサリサ、つまりシエスタの曾祖母は、水の精霊を助けた過去があるようだった。 「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」 「秘宝ですか…」 「秘宝?」 モンモランシーが「秘宝」と聞いて首をかしげる、モンモランシーは水の精霊が何かを守っていたなど知らなかった。 「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど交差する前の晩のこと」 小声でモンモランシーが「おおよそ二年前ね」と呟く。 「我はその秘宝を探すため、大地を水で浸食しているのだ。水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」 「…………」 ハルケギニアを水が覆うまで何年かかるだろう、数百年、いや数千年か。 あまりにも気が長い話に、シエスタは絶句した。 秘宝を取り返すためにハルケギニアを水没させるつもりだとは思っていなかったのか、モンモランシーも多少驚いている。 「き、気が長いんですね…」 「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り……今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」 どうやら水の精霊に寿命という概念は無いらしい、ずっと長い間、気が遠くなる昔からこの湖で暮らしてきたのだろう。 その途中でリサリサに会ったのかと思うと、シエスタは胸に何か熱いものがこみ上げる気がした。 「水の精霊さん、私たちがその秘宝を取り返してきて来ます、その秘宝はいったいどんな物なんですか?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 モンモランシーは秘宝の名に聞き覚えがあったのか、そういえば…と口を開いた。 「なんか聞いたことがあるわ。『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるとか…」 「そのとおり。誰が作ったものかはわからぬ、単なる者よ、お前の仲間かも知れぬ。ただお前たちがこの地にやってきたときにはすでに存在した…」 水の精霊はモンモランシーの言葉を肯定し、話を続ける。 「死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの命ゆえ。 単なる者よ、偽りの命に動かされた、自我を持たぬ者にしかならぬ。指輪を使いし者にしか従わぬ、操り人形よ……」 、 「とんでもない指輪ね……水の精霊よ、誰がそれを盗んだのか、名前や、背格好とか、手がかりになりそうなものを教えて」 モンモランシーが問うと、水の精霊はしばらく体を震わせてから答えた。 「風の力を行使して、我の住処やってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった。姿形はわからぬ…だが個体の一人が『クロムウェル』と呼ばれていた」 水の精霊の言葉にキュルケが答えた。 「…聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前よね」 カリーヌが静かに頷く。 モンモランシーは後ろを振り向き、キュルケに異を唱えた。 「ちょっと待ってよ、クロムウェルなんて名前、何人もいるじゃない」 だが、カリーヌは水面に近づき、モンモランシーの隣に並び、こう呟いた。 「ほぼ間違いはないでしょう。神聖アルビオン帝国の皇帝を名乗るクロムウェルは、神より授かった虚無の魔法を用いて死者をも蘇生させ、それによって多くの貴族を掌握したと言われています」 「え…」 モンモランシーが絶句する、それはこの場にいる皆の総意でもあった。 だが、一人、カリーヌだけは凛とした表情を崩さず、水の精霊に向き合って口を開いた。 「水の精霊よ、約束しましょう。その指輪を何としてでも取り返します。ですがすぐに取り返すことは出来ません。しばらくの間水かさを増やすのを待って頂けませんか」 水の精霊はふるふると震え、答えた。 「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら水を増やす必要もない…お前たちの寿命がつきるまでの間に、指輪が戻らぬのなら、我はまた大地を浸食するだろう」 「永劫の長き時を生きる水の精霊よ、貴方のご判断に感謝致します」 カリーヌは静かに呟き、感謝の意を表した。 水の精霊はまた震えだすと、今度は片手を前に出して、シエスタの前に手のひらを見せた。 「約束の通り我が体の一部を渡そう、太陽よ、リサリサの血を引きし者よ、ここへそなたの波紋を流すのだ」 シエスタは恐る恐る水の精霊の手を取った。 そして次の瞬間、シエスタの体に、電撃のようなものが走った。 「――!」 「新しき盟約、リサリサの盟約に基づき、我は我の体の一部とともに、そなたの体にリサリサの波紋を渡そう。波紋戦士が訪れたとき、リサリサから預かりし記憶を渡す盟約は、これで果たされる…」 シエスタは自然と、波紋の呼吸をしていた。 両手に集まった波紋が水の精霊の体に通り、水の精霊はそれに応じて球体を作り出す。 「ちょ…」 モンモランシーが、言葉にならないほど驚き、慌てる。 シエスタの手に渡された『水の精霊の涙』は、涙と呼べるような量ではないのだ、洗い桶一杯分はありそうな『水の精霊の涙』に、モンモランシーは背筋が寒くなる思いだった。 「そなたの力は我等精霊にとって命そのもの、太陽を木々が受け、木々が土地を豊かにし、土地は水を浄化する。だがそなたの力は、波紋は、我等精霊に絶大なる力を与える」 そう言って水の精霊は姿を変え、今度はモンモランシーの姿を取った。 「古き盟約の者よ、我はそなたに感謝しよう、太陽を我が元へ導いたのはそなたならば、我は今ここで新たに盟約を結ぼう」 「ほ、ほんとうですか、わわわ、わかりました!」 モンモランシーは緊張しつつ、腰に下げた袋から針を取り出し、指先に軽く突き刺した。 慌てたせいか、ダラダラと血が流れてしまったが、そんな事を気にしている余裕はない。 水の精霊が差し出した手の上に、モンモランシーが血を垂らすと、水の精霊は体を震わせて不定型な形に戻った。 「これ新たに盟約は結ばれた。単なる者よ、我はそなたと力となろう…」 そう言って水の精霊は、ごぼごぼと姿を消そうとした。 その瞬間、タバサとシエスタが水の精霊を呼び止めた。 「「待って」」 タバサが他人を呼び止めるところは、皆見たこともない、キュルケですら少し驚いている。 シエスタはタバサを見ると、静かに頷いた。先に質問してくれと言う意味だ 「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」 「なんだ?」 「貴方は『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由を知りたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。 しかし察するに、我に決まったかたちはない故に我は変わらぬ。お前たちが世代を入れ替える間も我は水と共にあった。 移り変わる者よ、おまえ達は、おまえ達にないものを欲するのであろう、祈りという形で……」 タバサは頷き、目をつむって手を合わせた。 いったい、誰に何を約束しているのだろうか解らないが、キュルケがその肩に優しく手を置いたのを見て、シエスタは「母を必ず治療する」と約束しているのだと気がついた。 シエスタは両手に波紋を流し、水の精霊から渡された体の一部を球体に保ちながら、水の精霊に質問した。 「水の精霊さん、私は、心を壊す毒を治す術を知りたいんです、さきほど私の心に触れたようにして、心を病んだ人を治すことはできますか?」 「太陽よ、体を治すことはできよう。だが心は我にも治せぬ。先ほどそなたの記憶から、心を病んだ者が見えた。そこにいる蒼髪の単なる者に近しい者であろう」 シエスタが「しまった!」と心の中で呟いた、モンモランシーとカリーヌに、タバサの身内が心を病んでいると知られてしまったからだ。 しかし、水の精霊に質問するチャンスなど、今ぐらいしか無いと思うと、質問せずにはいられなかったのだ。 「古き者。エルフを頼るが良かろう。彼らは精霊と共に自然と共にありし者。故に体の組成にもさることながら精神の組成にも関わる。 彼らは毒を作り出せる、それ故に解毒にも彼らを頼るがよい。我が体の一部が必要ならば、その時またそなたらの前に姿を現そう……」 水の精霊はそう言うと、今度こそ静かに湖底へと消えていった。 早朝、太陽が登り始める頃、シエスタ、モンモランシー、カリーヌの三人は竜の引く馬車でラ・ヴァリエール領へと向かっていた。 キュルケとタバサは、シルフィードに乗ってガリアに報告し、それから魔法学院に戻るらしい。 水面を引かせたのだから、任務はこれで完了だろう、と笑っていた。 モンモランシーは夕べほとんど寝ていないためか、椅子に座ってすぅすぅと寝ている。 シエスタは自分のマントを広げてから蔓草を巻き付け、袋状にし、その中に水の精霊の涙を入れていた。 これが無ければ、ラ・ヴァリエール領まで波紋を流し続けることになっていただろう、液体を両手に保ち続けるのは、かなり疲れるのだ。 多機能マントを作ってくれたコルベール先生に感謝しながら、シエスタはカリーヌの表情を伺った。 「……何かしら?」 「あ、いえ、何でもありません」 「貴方、さっきから私の顔をじっと見つめているわ」 「すみません…」 シエスタはカリーヌから視線を外し、俯いた。 その手は固く握りしめられ、ぷるぷると震えている。 今にも泣きそうな、それでいて何かに怒っているようなシエスタの雰囲気に、カリーヌは首をかしげた。 「ミス・シエスタ、言いたいことがあるのならば言ってご覧なさい。平民として育ったとしても、今の貴方はもう貴族なのです。堂々としなければなりませんよ」 シエスタはツバを飲み込んだ、その音がやけに大きく体の中で響く。 「……悔しいんです、私」 「悔しい?」 「もっと早く、波紋が使えていれば、ルイズ様を…」 「ミス・シエスタ。貴方にとってルイズはどんな貴族でしたか?」 「私にとって、ですか?私がメイドとして働いていた時…ルイズ様から料理の感想を何度か聞きました」 「感想?」 「はい。あれは…二学年になられて間もない頃でした」 シエスタは、ルイズとの馴れ初めを話した。 包帯を借りに来た時のこと… 食事を美味しいと言ってくれたこと…… 給仕の最中に水をこぼしてしまった時は、謝るときでも自信を持ちなさいと励ましてくれた。 「今思えば…ルイズ様は、自分に与えられた仕事を、役目を、その立場における責任を全うしろと、仰っていたのかもしれません」 「そう、ですか」 カリーヌは一言呟くと、それっきり黙ってしまった ふと窓の外を見ると、遠くに羊飼いらしき少女が見えた。 少女の被っている麦わらの帽子が風に飛ばされると、帽子の中からピンク色の髪の毛がふわりと広がった。 「…!」 だが、それは見間違いだった。 よく見れば、よくある茶色の髪の毛で、しかも背格好もルイズより大きい。 カリーヌの頬を、自然と涙が伝った。 ルイズは、顔に火傷を負って、どこかで生きているかも知れない。 しかしそれ以上にカリーヌの心を揺さぶったのは、シエスタの言葉だった。 ルイズの言葉はシエスタに受け継がれ、『活きて』いる。 母としての悲しみと、貴族としての喜びが混ざり合い、カリーヌの瞳からとめどなく涙が流れていった。 そして少しの時が流れ、場面は魅惑の妖精亭。 「なんだ、これは」 アニエスは、テーブルに置かれた豪華な料理と珍しい高級酒に、どう反応すれば良いのか解らずにいた。 「アニエス様!この間はありがとうございました、どうぞ気の済むまで食べて下さい!」 魅惑の妖精亭で働いている店員一人が、アニエスに駆け寄り礼を言う。 「この間?何のことだ?」 「格好良かったです、いけすかないチュレンヌの取り巻きを一網打尽にして…私達みんなアニエス様のおかげで助かったんですから」 「……記憶にないな、私はこの店に食事をしに来たことしか無いが」 「ああん、もうそんな謙遜するところが素敵ですぅ」 「あー、その、何だ、とにかく。こんな豪華な料理は食べきれない。この皿だけでいいから後は皆で食べてくれ…」 「えーっ!」 驚く店員に、店長の娘ジェシカが近寄って耳打ちした。 「ほら、駄目よそんなことじゃ。接待するのもサービス、知らんぷりするのもサービスなんだからね」 「そ、そうですね。それじゃあアニエス様。ごゆっくりおくつろぎ下さいね」 そう言って二人は、アニエスのテーブルから離れていった。 アニエスは自分の頬をつねって、痛みを確認した。 「夢じゃないな。だとすると…」 アニエスが店内を見渡すと、一人の女性が目についた、ルイズである。 ルイズはアニエスの視線に気づいて、アニエスのテーブルに近寄った。 「おい、どういう事だこれは」 「格好良かったわよ。賄賂を強要して私腹を肥やすチュレンヌに、剣だけで渡り合う女シュヴァリエ・アニエス。女王陛下も喜んでくれるわ」 「やっぱりお前の仕業か…」 ため息をつくアニエスを見て、ルイズはくすくすと笑った。 「ところで、明日、二人組がここに来る。護衛を頼むぞ」 「二人組?」 「あぶり出し…いや、ねずみ取りを明日行う。念のため王宮から出てくる馬車のうち、酒樽を三つ積み込んだ馬車を護衛してくれ」 「…二人って、あの二人か。まったく無茶な作戦を考えるわね」 「発案者はそのお二人だよ」 「まあ!」 ルイズが大げさに驚くと、何人かの店員と客が、ルイズの方を見た。 それに気づいたアニエスは気まずそうに顔をしかめたが、ルイズはあえて大きな声でこう続けた。 「お酌できるなんて光栄ですわ」 「え?あ。ああ」 アニエスは思わずグラスを手に取り、ルイズの前に差し出した。 ルイズは差し出されたグラスは細く、縦長のものであった。 ルイズは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべると、グラスにワインを注ぎ、アニエスの手に自分の手を重ねた。 そのままアニエスの唇にワイングラスを運び、ルイズはグラスの反対側にキスをした。 「「「「「「キャー♪」」」」」」 店内から黄色い声が上がる。 他にも「やれやれ!」とか「もっと!」とか「おおお!」とか、驚きの声が上がっていた。 グラスが見えぬ位置からでは、ルイズがアニエスにキスをしたと勘違いするであろう。 事実、何人もの人が勘違いをして、二人に向けてヒューヒューと口笛を鳴らし、はやしたてていた。 魅惑の妖精亭から少し離れた宿屋では、ワルドとロングビルが、情報交換をしている所だった。 今、魅惑の妖精亭で皿洗いをしているのは、ワルドの遍在である。 「……って事は、やっぱりアタシを助けたのは、アンタだったのかい?」 「僕が助けたのは偶然だが、ルイズの意志でもある」 「まいったね…あの嬢ちゃんにも、あんたにも恩を作られちゃったか」 「返せとは言わないさ、裏切りさえしなければな」 「裏切り者のアンタがそれを言うと、なかなか皮肉だね」 「フン」 ラ・ロシェールで起こった出来事や、アニエスに連れられてトリスタニアに戻ってきた事を話したロングビル。 彼女は近々ウェールズと接触し、今後のことを話し合うらしかった。 「トリステインにもアルビオンにも協力はしないさ、でも、嬢ちゃんには協力するつもりだよ」 「ルイズが話していた、ティファニアという娘のためか」 「…アタシの家族さ。神聖アルビオン帝国とやらを頬って置いたら、いつティファニアに危害が加えられるか解らないからね」 椅子の背もたれに体を預けて、ロングビルが大きな欠伸をした。 「ふわ……今のままじゃアルビオンに密航もできないしねえ、嬢ちゃんを手助けするのが一番の近道だろうと思ったのさ」 「かも、しれないな」 ワルドは薄笑いを浮かべた、嫌みたらしい笑みではなく、同感だと言いたげな笑みであった。 「む? 店が騒がしいな」 「ああ、そういえばアニエスが店に立ち寄るとか言ってたよ。ルイズとの関係を悟られるのは困るから、アタシはごめんこうむったけどね」 「何!何だと!」 ワルドが珍しく、狼狽えたような声を上げた。 「ちょっ、ちょっと、どうしたのさ」 「………フーケ、一つだけ聞こう。ルイズに何かされたことはあるか?」 「はあ? まあ、抱いてくれって言われたことはあるけど(母性的な意味で)」 ワルドは天を見上げてから、その場にがっくりと項垂れた。 「どうしたんだい」 ロングビルがワルドの顔をのぞき込むと、ワルドは少し渋い顔をしていた。 ワルドは偏在を通して、ルイズとアニエスがキスをしているのを目撃してしまったのだ。 「フーケ、そうだな、仮に、だ。 最愛の妹がレズビアンだったら、君ならどう接すべきだと思う?」 ロングビルの顔が、瞬間沸騰して真っ赤に染まる。 「何想像してんのさ!」 ロングビルの腰の入った平手打ちが、ワルドの頬に命中した。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8065.html
前ページ次ページ悪魔の虹 ここ、トリステイン魔法学院では今年二年生となった生徒達が 春の使い魔召喚 の儀式で様々な使い魔達を呼び出し、契約していた。 ある生徒は火竜山脈に棲むとされるサラマンダーやら絶滅したとされている古代の幻種に属する風韻竜を召喚したり、またある生徒は仕草などが微妙に愛らしいジャイアントモールを召喚したりと賑やかだった。 そんな中ただ一人、どれだけ時間をかけても使い魔を召喚できない者がいる……。 「いつまで経かってるんだ、あいつは……」 「所詮はゼロのルイズだ。あいつなんかにサモン・サーヴァントが成功するもんか」 既に使い魔を召喚し終えていた生徒達からぼそぼそと、陰湿な悪口が飛ぶ。 桃色のブロンドを揺らす少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは幾度もの召喚の儀式に失敗していた。生徒達はもちろん、初めは彼女を励ましてくれていた教師コルベールも今では彼女の失敗に辟易としていた。 コルベールがまた後日に行おう、と持ちかけてもルイズは諦めずに続ける。 しかし、いくらやっても爆発が起きるだけで使い魔は召喚されない。 他の生徒達にもこれ以上、時間を割く訳にもいかない。コルベールはルイズに「次で最後ですよ」と通告する。 これで最後だと言われ、ルイズも息を飲みながら杖を構える。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!」 もう失敗は許されない。このまま、ゼロのままで終わる訳にはいかない。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 この際、どんなものが呼び出されても構わない。魔物だろうが悪魔だろうが。 「私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!!!」 ――お願い! 出てきて! あたしの使い魔!! ルイズは杖を振り、そしてまた爆発は起きた。 また失敗か、と誰もが思っていた。が、今度は違うようだった。 爆発の煙の中から現れたのは――人のようだった。それも、ただの平民。見た事のない変な服を着ているのだから間違いない。 「見ろよ! ルイズが召喚したのは平民だぜ!?」 「さすがはゼロのルイズだな! 平民を呼び出すとは!」 ドッ、と生徒達が爆笑していた。そして、召喚したルイズを馬鹿にしたように野次が飛ぶ。 多くの生徒達が爆笑する中、たった一人だけ笑っていない生徒がいた。 青い髪をした眼鏡をかける小柄な少女。風韻竜を召喚したタバサは興味も無さげに読書を続けていたが、野次を耳にしてちらりとそちらへ視線をやる。 青い変な服を着た平民の少年だった。召喚したルイズがコルベールにもう一度だけやらせて欲しいとかみついているが、一度呼び出したからもうやり直しは認められない、と言って彼女を諭している。 ルイズは渋々と平民にコントラクト・サーヴァントの儀式を行おうと口付けをしている。一応、儀式は成功したようだ。苦痛に喘ぐ彼の左手にもルーンが浮かんでいる。 別にどうという訳ではない。……ただ、彼の足元に転がっている小さな物体がタバサは気になっていた。 「ふむ、珍しいルーンですね……。では皆さん、教室に戻りましょう!」 コルベールはルイズが召喚した使い魔(といっても平民だが)の少年の左手のルーンを確認すると、生徒達を促す。 「わぁー、何これ?」 「きれーい」 すると、女子生徒達が見惚れたような声を上げている。 コルベールはそちらを振り向き、顔を顰めた。 「綺麗なオパールね……」 赤髪に褐色の肌をした女子生徒、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーも見惚れたようにそれを手にし、指先でなぞっていた。 「しかも、こんなに大きい……」 彼女の手にあるのは、ちょうど手の平程度の大きさをした虹色の光沢を放つ卵上の物体だった。 多くの女子生徒達がその物体に惹かれて集まり、取り合いになっている。 あれは、ただの宝石とは思えない。コルベールはそう感じた。 「君達、ちょっと待ちなさい!」 コルベールは慌てて彼女らの元へと駆け寄り、虹色の物体を取り上げる。 自分の手の中にあるその物体を近くで凝視するコルベール。 確かに、見た目は美しく大きな宝石に見えるが……。 「……これは、宝石ではないな」 「ええ? それでは、何なのですか」 取り合いに混じっていたルイズが尋ねてきた。 眼鏡を掴み、さらにじっと睨み付けるように観察するコルベールはその形状、大きさなどからこの物体が何なのかを断定する。 「……何かの、卵だね」 「卵?」 「あ、そいつは俺の傍に転がってたやつ……」 ルイズが召喚した使い魔の少年が、コルベールの手にするそれを不思議そうな目で見つめてくる。 そういえば彼がルーンを刻まれている時に苦しんでいた際、彼の傍らに虹色の光沢を放つ物体があった。それがこれだろう。 「と、いう事はこれは君と一緒に召喚された物なのかな」 「そ、それじゃあ!」 顎をつまみながら推測するコルベールだが、召喚したルイズ本人は途端に狂喜乱舞したようにはしゃぎだす。 「この中に、凄い幻獣とかが眠っているんですね!?」 コルベールの手からその物体を引ったくり、愛おしそうに間近でそれを見つめている。 「卵のままじゃ、孵化するのにどれだけ経かると思ってるの……」 「やっぱり、ゼロのルイズだな。卵のまま召喚しちまうとは……」 そんな陰口が野次馬達の中から飛ぶのが聞こえた。 「何をしているんだ、君達。教室に戻りなさいと言っただろう?」 すぐ様コルベールが野次馬の生徒達を再度、叱るように促していた。生徒達は次々と中庭を後にしていく。 そして、ルイズの手から虹色の物体を取り上げる。 「ミズ・ヴァリエール。たとえこれが君が召喚した物だとしても、君は既に使い魔と契約をしている」 「いいえ! こんな平民は、使い魔じゃありません!」 平民の少年を指差し、喚くルイズ。 「その幻獣が、あたしの本当の使い魔なんです! こいつは間違って召喚されてしまっただけです!」 「しかし、二体も使い魔を持つなんて特例は許されないし、そもそもこれがまだ幻獣の卵だと決まった訳ではないのだよ?」 と、諭されてルイズも低く唸りながら不満そうにしていた。 「とにかく……これが何なのか分からない以上、私達が預かっておくから、君も教室に戻りなさい」 渋々とした顔で頬を膨らませるルイズはようやく納得したのか、平民の使い魔を連れて中庭を後にしていた。 同じように中庭を後にしていくコルベールは、手の中に納まる物体を睨んでいた。 こんな卵は、見た事がない。動物なのか幻獣なのかは分からないが、綿密に調べてみる必要がありそうだ。 もし本当にミス・ヴァリエールの言うようにとてつもない幻獣か何かだとしたら……。 前ページ次ページ悪魔の虹
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4509.html
注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 ここはトリステイン魔法学院。トリステイン王国の、全寮制メイジ養成機関だ。 メイジが用いる魔法には、火・水・風・土の四系統がある。 そして扱える系統が増えるにつれ、ドット(1系統のみ)、ライン(2系統)、トライアングル(3系統)、スクウェア(4系統全て)の使い手と呼ばれる。 火の系統の使い手 『微熱』キュルケ 水の系統の使い手 『香水』モンモランシー 風の系統の使い手 『雪風』タバサ 土の系統の使い手 『青銅』ギーシュ ――――そして彼女は―――― 少女は憂鬱だった。 今日は、今年晴れて二年生へと進級した者達の、「使い魔召喚の儀」。つまりは「サモンサーヴァント」が行われる日だ。 使い魔は、メイジにとって、「目」であり「足」であり「盾」でもある。よってこの召喚の儀も、必然的に重要なものとなる。 彼女の名は、ルイズ。「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 名門公爵家、ヴァリエール家の三女。 本来なら、おいそれと話しかけることも出来ないほどの身分だが、今彼女は、朝からずっと周囲の生徒から皮肉を浴びせられている。 「おい『ゼロ』のルイズ!お前本当にやるのか?間違っても俺達を爆発に巻き込むんじゃないぞ~」 「ダメもとでやってみたら、もしかしたら成功するかもしれないぞ?原形をとどめてたらいいけどなぁ!はははは!!」 (はぁ・・どうしてこんな目に・・・) この罵詈雑言は、なにも今日に限ってのことではない。理由は一つ。 彼女が「魔法の使えないメイジ」だからである。 彼女は有名貴族の出でありながら、これまで一度も魔法が成功したことはないのだ。 ゆえに『ゼロ』。「ゼロのルイズ」だ。 「ルイズ~ごきげんようー」 怪しげな微笑を伴なって現れた、ルイズと対照的の豊満な肉体を持つこの女性の名は、キュルケ。 火の系統を得意とする、トライアングルメイジだ。 「あぁあんたね・・いったいなんの用?」 ぶっきらぼうに返すルイズ。キュルケとはいわゆる、犬猿の仲だ。出来れば早々に退散したいと思っていた。 「あらつれないわねぇ。今日はいよいよ召喚の日じゃない。あなたにはいったいどんな素敵な使い魔が現れるのかしらねぇ~。くすくす・・・」 「・・・・・言いすぎ・・・」 キュルケの横に立つ、青い髪の少女が言う。 だが、他人に哀れまれるなど、ルイズのプライドが許さなかった。 「・・・見てなさい・・・。絶対にあなたたちより高貴で!美しくて!そして強力な使い魔を召喚してみせるんだから!!!」 「おいおい。ルイズが吹いたぞ」 「ははは召喚の時間が楽しみだな、ゼロのルイズ」 負けてなるものか。ルイズは胸に固くそう誓った。 もともとプライドの高い少女である。このようなことを言われて、黙っていられるわけがないのだ。 そして召喚の時・・・ キュルケはサラマンダーを、タバサはなんと風竜を召喚した。 「おいルイズ。次はお前の番だぞ。どうせ何も召喚できないだろうけどな」 (どうしよう・・これで成功しなかったら・・・) ルイズがそう苦悩する中でも、野次はとびつづける。 (・・・みてなさい・・!) 詠唱が始まる 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」 (・・・・お願い・・・!!) 「私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 すると突如、少女のまわりで、本来召喚の儀式では起こりえるはずのない爆発が起きた。 人々が驚き叫び、逃げ惑う 体中に纏う頑強な鎧 腰に携えた長剣 真黒の長髪 真紅のマント 爆発によって巻き起こった粉塵が晴れたとき そこにいたのは 一人の男だった (に・・人間!?どうして・・・そんな・・・) 片膝をついたその男は、鎧やマントを身に纏ってはいるが、杖を持っていなく、剣しか所有していないように見える。 おそらく、裕福な平民なのだろう。 だが次の瞬間、ルイズは自分の浅はかさを後悔した。 「お・・おい!ルイズが平民を召喚したぞ!!」 「は・・・ははは流石ゼロのルイズだ!やることが違うな!!!」 とりあえず差し迫る害がないと判断すると、途端に周りがざわめき始める。 「ねぇタバサ。いったいどういうことかしら、これ」 「・・・危険」 「え?どういうこと?タバサ」 今この場で、自分たちがどういう状況にあるのかを把握出来ているのは三人。 タバサとコルベール。 そしてルイズだけだ。 (・・まずい・・・!!あの男は・・危険だ!!) これまで数多の死線を越えてきたコルベールだが、そんな彼でさえ、体中の細胞が警告を発している。 ただ一つ「逃げろ!!!」と。 「あ・・あなた・・いったい誰・・・?」 生まれて初めて感じる、言いようのない恐怖を感じながらも、少女は言った。 貴族としてのプライドが、この場から逃げ出すことを許さなかったのだ。 『彼』もまた困惑していた。 自分は完全に消滅したはずなのだ。 なぜ生きている?そしてここはどこだ? 目の前に広がるこの光景は何だ? 彼自身、何故そう言ったのかはわからない。 もはや捨てた名だ。 だが彼はゆっくりと。しかしハッキリとこう答えた。 「Wladislaus Drakulya」 そして続けてこう言った。 「アーカードだ」